介護士のための医療講座『脳梗塞は、まず左右差を見る』

今回は、脳梗塞のお話です。脳梗塞とは、脳細胞に血液を供給する血管が閉塞することにより、脳細胞が壊死を起こして発症する疾患です。右脳は、左半身の動きや感覚を、左脳は、右半身の動きや感覚を支配しているため、体の動きや感覚に左右差が生じた場合に脳梗塞を疑います。どうも表情がおかしい、口元が歪んできた、片方のまぶたが垂れ下がってきたなどの症状は、顔面神経など、顔を支配している神経が、脳梗塞によって障害を受けることで見られる症状です。ですから、まずは、顔の表情に左右差がないか、そして、次は、両手足に同じように力が入るか、この「左右差をみる」ということが、非常に大事になります。次に、話し方がおかしくないかを見てください。うまく話ができない場合は、脳梗塞かもしれません。

  脳梗塞発症早期には不可逆的損傷を受けた脳虚血巣中心部(コア)の周囲に、機能障害をきたしているが不可逆的損傷に至っていない領域(ペナンブラ)が存在します。ペナンブラは、脳血管が閉塞したままであれば数時間以内に不可逆的な梗塞巣コアへ移行する領域を言います。日照りが続くと、枯れてしまう花としおれてしまう花が生まれます。脳虚血巣中心部(コア)は、枯れてしまった領域、不可逆的損傷に至っていない領域(ペナンブラ)は、しおれている領域と言えます。現在の医学では、不可逆的損傷に陥った神経細胞は、枯れてしまった花と同様、再生させることは困難です。したがって、脳梗塞の治療は、まず、不可逆的損傷に至っていない領域(ペナンブラ)への血流をできるだけ早期に再開させることとなります。再開通させる方法としてよく使われるのは、血管を閉塞した血の塊(血栓)を溶かす血栓溶解療法と、血栓をカテ-テルを使って回収する機械的血栓回収療法があります。血栓溶解療法では、発症して時間が経過してから開通させた場合、脳梗塞を起こした部位に出血が起こり、かえってよくない場合があります。このため血栓溶解療法は、発症から4時間30分以内がひとつの目安となります。一方、機械的血栓回収療法は、もう少し時間が経過していても可能です。 機械的血栓回収療法は、MRIで、再開通しても回復不能なコア領域に比べて、回復の期待できるペナンブラが大きいと評価されれば、発症後24時間以内であれば施行されることがあります。ただし、機械的血栓回収療法は、太い血管にしか行えない治療ですので、末梢の血管の閉塞は適用となりません。

  いずれにしても、脳梗塞の治療では、できるだけ早期に病院に送り届けることが大切です。朝、家族が様子を見に行ったときに脳梗塞をすでに発していた場合、発症時刻はいつになるのでしょうか。この場合、MRI検査の画像からの発症時刻を推定します。脳梗塞は、目が覚める少し前、体を活動しやすい状態にするために、交感神経が緊張し、その結果、血管が収縮し、血圧が上昇することによって脳梗塞が起こることがしばしばあります。従いまして、発症時刻不明であっても、血栓溶解療法の適用になることがありますので、できるだけ早期に病院へ搬送してください。左右差が新たに発生した場合、躊躇せず救急車を呼ぶことが大切です。間違いを恐れるよりも、見逃しを恐れましょう。もう1つ注意していただきたいのは、以前に脳梗塞を発症している、元々左右差がある場合があります。ご家族の場合は毎日顔合わしていますが、大きな介護施設では、そうでない場合も多々あります。介護施設に勤務する人は、利用者様全員に対し、顔の表情や手足の動きに左右差がないか、普段の話し方がどうなのかを知っておくことが大切と考えています。

デイサービス広報誌2026年7月号に記載